《放射線医学総合研究所》

 

【筒井タカヤ委員】

 

 愛知県では名古屋大学が主になってがん治療の重粒子線による治療施設実現への検討を進めているということであるが、放医研から提供された資料の中の内容には名大が重粒子施設で研修している協力という記載もなく、愛知県の名前すらないのはなぜか。

 

 

【放射線医学総合研究所】

 今のところ愛知県の大学との連携というものはない。個別の共同研究はあるかも知れないが、協定は結んでいない。

 

 

【筒井タカヤ委員】

現在、群馬大学以外でその他に重粒子治療への動きはあるのか。愛知県では平成22年度を目途に重粒子治療の実現に向け進めているが、国内での設置に向けた具体的な動きがあればお知らせください。

 

 

【放射線医学総合研究所】

 具体的に協定を結んで行っているのは群馬大学だけである。各地の新聞報道などの情報では、地方自治体、国立大学や附属病院といったところの10箇所程度で動きがあるようであるが、当方で確認しているのは群馬大学で事業を開始したということのみである。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 重粒子治療の人材の確保について、群馬大学はすでに当研究所との提携で何とかなるとしても、今の日本の現状では人材の育成・確保は前途多難です。ヘッドハンティング、奪い合いのような状況になってしまうものと思われるが、重粒子治療・研究の人材の育成体制はどのようになっているか。レジデントとして、当センターに来ている医師達にまずは期待するということになるのか。

 

 

【放射線医学総合研究所】

 当センターでは法人の中期目標で示されている役割に沿って人材育成を行っているが、国内に施設ができてくると当センターでのキャパシティだけでは不足する。平成19年度から文部科学省では重粒子線に関してのみならず陽子線も含めた特殊な人材が必要ということで、粒子線がん治療に関わる人材の育成プログラムという5か年の計画が始まった。

 

これは将来的に必要となるがん治療に関わる医師、技師などの人材の育成を目的としており、8月から委託事業として当センターを含めて8研究機関が人材育成に当たっている。委員指摘の人材の奪い合いという状況はかなり緩和されるのではと期待されている。

 

 名古屋大学の関係で補足すると、2・3年ほど前からレジデントという形で医師の研修を受けている。数から言えば4・5名であり、これは群馬大学と同じくらい多い。ここで研修を受けた医師が、現場の外来として治療を行っている。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 愛知県で22年から開始する計画について、具体的な人材の確保はどのようになっているのか大変に気になっていますのでお尋ねしたのです。

 

 

放射線医学総合研究所

 名古屋大学からは、来年も一人来る予定である。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 兵庫県の重粒子線治療施設と当センターの違いは何か。機器によって効果に違いは出るのか。普及型と既存型の設備で、機能面、設置条件、治療面、経済面などにおいて違いはあるのか。

 

 

放射線医学総合研究所

 当センターも兵庫県の設備も普及型ではなく研究的な目的を含んだ装置で、兵庫県のものは当センターの技術を使った設備である。やはり群馬大学より前のものは、研究を目的とした設備といえる。

 

 当センターは世界初であったので、かなり色々なことが研究できる性能をもっている。兵庫県のものは若干エネルギーを下げたロースペックの装置として、炭素線の他に陽子線も同時に使えるものとなっている。また群馬大学のものは、炭素線を普及するためのフルスペック装置である。

 

経費的には、当センターは366億円、兵庫県は200数十億円で、群馬大学のものは120億円程で経済的なものになっている。

 ロースペックのものは、照射エリアや深さの点で劣っており当センターと同じような患者の治療は出来ない。関西の方からも当センターに治療に来る。そういう意味で総じて言えば、当センターではより進行したがん患者の治療を行っていると言える。

 

 群馬について言えば、当センターと同じ治療がローコストで出来るという設計思想で、コンピューターなどの性能も進んだ技術を導入できるといった可能性はある。

 運営面で言えば、当センターでは治療だけでなく研究も行っているので大きな規模の運営となっているが、群馬大学においては研究にかける人数を減らすことが出来る。今後各地に普及展開する装置は、運営に掛かるコストを下げることが出来る。

 

 

【筒井タカヤ委員】

胃がん、大腸がんなどには重粒子線は効果が薄いと聞いていますが、重粒子線治療を受ける限られた患者数などを考えると採算性の点で問題はないか。あるいは、照射幅の広い陽子線の方がいいのではないかといった議論もあるがご意見をお尋ねします。

 

 

放射線医学総合研究所

 陽子線との比較で言えば、胃がんや大腸がんが治療可能かというと陽子線も同じであり、陽子線であるからといって患者数が増えるということではないと思う。陽子線は通常のエックス線と生物学的な効果は変わらない。つまりエックス線と陽子線は、あまり差はないのではないかと思う。線料を集中できるという意味では、陽子線は効果はある。

 

しかし口内がんや骨肉腫など、これでないと治療できないという分野は陽子線よりも炭素線の方が多い。陽子線とエックス線の間では差はあまりないが、エックス線と炭素線では歴然とした差がある。そういう意味からすると、自らやっているから言うわけではないが、設備を設置するのであれば、炭素線の方ではないかと思う。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 外科分野の医師達から、粒子線の効用や導入について時期尚早といった声を聞くがどんなものでしょうかお尋ねします。

 

 

放射線医学総合研究所

 それは我々粒子線治療に携わる者の責任かも知れない。まだまだ良さを十分理解してもらっていない現状がある。

 我が国のがん治療は、比較的外科を主体に発展してきたことがある。がんと診断されると放射線治療に向かうのは20パーセントで、アメリカの場合60パーセントとなる。

 

 まだまだ外科治療が主流であるが、我々として出来ることは、きちんと症例を積み重ねていくことが大切であると思う。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 アメリカにおいて他の国でも重粒子線の治療はそれほど進んでいないが、日本の医療関係者は十分その事情を把握していないようなので見解を述べてください。

 

 

放射線医学総合研究所

 諸外国の事情で言えば、ドイツは稼動する直前でありその他2か所で建設中である。イタリアでは建設が終わろうとしている。フランスにおいても建設が決定している。アメリカの状況だけ見るとあまり進んでいないが、一部では計画の検討はされている。アメリカは医療費のシステムは少しいびつになっていて、治療回数でカウントされる場合が多い。

 

重粒子線は短期間での治療がメリットであると思っているので、経済的な面でカウントされると採算面で良くないという妙な感覚があるようである。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 装置がきちんとコントロールが出来て応用範囲が広がってくるとすると、今後はどう進展していくのか。

 

 

放射線医学総合研究所

 まさに我々はそれを目指してやっている。今の照射式方式はある意味で確立しており、通常の臨床にはほぼ支障はないと思っている。歴史はまだ10年あまりであり、これからもこの領域は進歩していくと思われる。

 

 

【筒井タカヤ委員】

 愛知県で行なった場合、患者数や採算性についてはどう思うか。

 

 

放射線医学総合研究所

 

 

 

 
 愛知県の状況について知識を持っていないので回答しづらいが、一般的には患者からするとがん治療についてあまり遠方へ行くということは好まない。最初に紹介された病院のある地域、すなわち中部地域がそのエリアで、日帰りで来られるところということになると思われる。